インターネットで検索すると,古代エジプト王朝の石碑と碑文にポリオを思わせる記録があること,19世紀中ごろより流行の記録が報告されていること,20世紀に入ってから欧米で大流行が始まり,第2次世界大戦後に世界各地で流行したことなど,ポリオに関する解説記事が容易に見つかります。
日本では,1940年代頃から全国各地で流行がみられ,1960年には北海道を中心に5,000名以上の患者が発生する大流行となりました。そのため1961年に当時未承認・未検定であった経口生ポリオワクチンの総計35万人に及ぶ臨床試験(ウィキペディアの記載では事実上の緊急接種と評価しています)を行い,さらに超法規的措置によって当時の旧ソ連とカナダから1300万人分の経口生ポリオワクチンを緊急輸入し,これを一斉に投与すること(このとき,世界で最初の徹底したNID(=National
Immunization Day 全国免疫接種日=全国一斉ポリオワクチン投与日が実施されました。なお,NIDは後に世界保健機関(WHO)によってポリオ根絶の世界戦略として採用されました。)によって流行を急速に終息させることができました。その後,日本では患者数が激減し,1980年の1型ポリオの症例を最後に,野生型ポリオウィルスによるポリオ麻痺症例は見られていません。
ポリオは,天然痘(1980年にWHOにより根絶宣言が出された)に続いて,WHOが根絶のために各国と協力して対策を強化している感染症です。
ポリオは,1988年には125か国以上の常在国があり,患者は35万人発生していたと推計されていました。このため,1988年,世界ポリオ撲滅イニシアティブ(Global
Polio Eradication Initiative:GPEI)が,WHO,国際ロータリークラブ,米国疾病予防管理センター(CDC),国連児童基金(UNICEF)の参加により設立され,その後の世界的な努力により,患者数は99%以上減少し,2013年には患者は406人と報告されました。そのうち常在国では160人のみの報告でした。残りはポリオの常在国から非常在国への国際的な広がりでした。2014年は,世界で3か国(ナイジェリア,パキスタン,アフガニスタン)の一部地域(過去で最も狭い地域)のみに常在しています。野生株ポリオの3つの型(1型,2型,3型)のうち,2型は1999年に根絶されました。3型の症例数は,最後の症例がパキスタンから2012年4月に報告され,今までの最低水準まで減少しています。
とはいえ,感染者が1人でも残っていれば世界中のすべての国の人々がポリオに罹患する可能性が残ることになります。
ロータリアンは,122カ国の20億人以上の子供たちに予防接種を提供するため,10億米ドル以上の資金と多くのボランティア労力を費やしてきました。
そして,ポリオの常在国,資金提供団体,寄贈団体,関係機関,国内外の諮問機関との協議の結果,2013年から2018年に展開する新たなポリオの根絶・終盤戦略計画2013−2018(Polio
Eradication and Endgame Strategic Plan 2013−2018)が取りまとめられ,2013年4月末にアラブ首長国連邦のアブダビで開催された世界的なワクチンに関するサミットで公表されました。これは,野生株のポリオウィルスとワクチン由来のポリオウィルスのすべての型によるポリオを同時に根絶する初めての計画です。
しかし,この計画では55億米ドルもの費用が生じると計算されており,また,世界からポリオが根絶された状態を維持するために15億米ドルが必要になるようです。